誰にでも、助けが必要な時があります。特に子育て中の親御さんは、突然の病気や仕事の都合、家族の緊急事態など、一時的に子どもの養育が難しくなる状況に直面することがあります。そんな時、福岡市で静かに広がりつつある「ショートステイ里親」という支援の形をご存知でしょうか。
ショートステイ里親とは、短期間、他の家庭のお子さんを自宅で預かり、温かな家庭的環境の中でケアする活動です。施設ではなく「家庭」という場で子どもを迎え入れることで、子どもの安心感を守りながら、保護者の方が必要な時間を確保できるようサポートします。
この記事では、福岡市で実際に行われているショートステイ里親の取り組みを通して、その目的や社会的な必要性、そして活動の実際についてお伝えしていきます。子育て支援のセーフティネットとして、また地域で支え合う新しい形として注目されるショートステイ里親の世界をのぞいてみましょう。
ショートステイ里親の目的とは
ショートステイ里親とは、保護者が病気や育児疲れなどの様々な理由で、一時的に子どもを養育できない場合に、短期間(原則7日以内)子どもを預かる福岡市の子育て支援サービスです。このサービスは、子育て短期支援事業として位置づけられています。
ショートステイの主な目的は
- 保護者の疾病、出産などによる一時的入院や静養
- 同居家族の看病
- 事故・災害時の対応
- 冠婚葬祭への参加
- 仕事での出張、夜間の勤務
- 育児疲れや育児困難による休息
- その他、家庭での養育が一時的に困難な場合のセーフティネット
福岡市では、2018年度に458人の子どもがショートステイを利用しており、このサービスへの需要が年々高まっています。

福岡市で年々利用が増えてきているショートステイは、理由を問わずにお子さんを預けることが可能です。しかし私が今までお預かりしてきたご家庭のショートステイ利用目的は、パートナーのDVからの避難、離婚の為の話し合い、母親の体調不良や精神疾患などが主であり、ファミリーサポートのように気軽にショートステイを利用している方はまだまだ少ないようです。
福岡市の子どもたちを支援する役割
ショートステイ里親は、福岡市の子育て支援システムにおいて重要な役割を担っています。特に以下のような支援を提供しています。
- 地域に密着した支援: 子どもが住み慣れた地域で過ごせるようにする

見知らぬ町で生活するよりも、見慣れた景色の街の方が安心できます。子どもの自宅近くに住んでいて送迎可能な里親が見つかれば、学校や保育園、幼稚園も変わらず里親宅から通えます。
私も自宅から徒歩5分の保育園に通うお子さんをお預かりしたことがあります。お預かり中は毎日お子さんを保育園まで送迎しました。
2.家庭的環境の提供: 施設ではなく、家庭環境の中で子どもを養育する

施設でも家庭に近い暮らしをするところが増えてきましたが、ショートステイ中は、里親の自宅で家族の一員として生活します。週末はお預かりしているお子さんと家族で外食したり一緒に公園やレジャー施設などへ遊びにいくこともあります。
3.学校生活の継続: 子どもの通学環境を維持し、教育の連続性を確保する

施設で子どもを預かる場合、子どもたちが保育所や幼稚園、学校に通えなくなる問題があります。そのため、近くに里親がいれば、子どもは里親家庭で生活しながら、普段と同じ学校や幼稚園に通い続けることができます。子どもの友達や学校の先生との関係性は継続できます。
4.子どもの不安軽減: 見知らぬ施設に預けられることによる不安を軽減する

施設には、虐待を受けたり、実親との関係が良好でなかったことから人間関係で悩んだり、不安やストレスを抱えた不安定な子どもたちが一部います。様々な事情を抱えたお子さんのいる施設より、住み慣れた町の里親宅で過ごす方が子どもの不安は軽減されるのでは無いでしょうか。
5.保護者の安心: 子どもが安全な環境で過ごせることによる保護者の安心感の提供

施設には専門の保育士、児童指導員、など子どもをサポートしてくれる専門職の方がいるので、そういったサポート面での保護者の安心感はあると思います。しかし、いつもの日常とあまり変わらない環境で生活でき、子どもと1対1で向き合う里親は、家庭的な安心感があると思います。
子どもたちや保護者への影響と実際の体験談
ショートステイ里親の利用が子どもたちに与える影響として、以下のような声が寄せられています
子どもたちの声:
- 「いつもの学校に通えたのがうれしかった」
- 「きょうだいが一緒だったので、寂しさがまぎれた」
- 「お泊りしたおうちの子(お兄ちゃん、お姉ちゃん)と一緒に遊んで楽しかった」
- 「どんなところで過ごすのか想像できず、最初はとても緊張した」
保護者の声:
- 「子どもが楽しそうにしていて良かった」
- 「里親家庭の子どもにも、地域の人にも、わが子が可愛がってもらっていると聞いて嬉しい」
- 「あたたかい家庭の中で、丁寧に関わってもらっていると感じた。またお願いしたい」
- 「学校に行けなかったら勉強が遅れると、子どもが不安だったようだ。通学できると知ってホッとした」
里親の声:
- 「子どもの村が調整役になってくれたことで、預かりに専念できています。何かあればすぐに連絡でき、普段の様子を保護者に確認してもらえるので安心してショートステイの預かりができています」
- 「わが子が、預かった子どもの世話を通して思いやりのある行動が自然に出来るようになったと感じています。成長を感じて嬉しかったです」
- 「子どもがいる生活の楽しさを感じられる」
- 「家庭に慣れるまでの試し行動やいたずらに対応するのが難しいこともある」
- 「家族の会話が増える」
- 「子どもの成長を感じる喜びがある」
これらの体験談からは、ショートステイ里親が子どもたちに家庭的な温かさを提供し、保護者に安心感をもたらす重要な役割を果たしていることがわかります。また、里親家庭自身も子どもを預かることで得られる喜びや成長があることが伺えます。※SOS子どもの村JAPAN資料より抜粋。
我が家のショートステイでの温かな出会い
我が家にショートステイで来る子どもたちは、ほとんどが小さな乳幼児さん。なかなか言葉での感想を直接聞けないものですが、嬉しかったのは「この前のお家にまた行きたい!」とママに伝えて、再び我が家に来てくれた姉妹がいたことです。二回目にはお姉ちゃんとうちの息子が「結婚する❤️」というほど意気投合していて、小さな二人が可愛らしくて思わず夫婦で笑ってしまいました。
保護者の方からも、「帰ってきた子どもの表情が明るくなっていました」「久しぶりにぐっすり眠れました」「リフレッシュできて、また頑張れそうです」などと言っていただくことがあります。
里親として一番嬉しいのは、こうして感謝の言葉をいただける瞬間。社会の一員として役割を持ち、誰かの役に立てる喜びを感じられるんです。
うちの息子がお預かりした子と一緒に遊んでいる姿は、本当に微笑ましくて愛おしい瞬間です。特に赤ちゃんが来たときは、「おむつ持ってくるね!」と率先して手伝ってくれたり、大切なおもちゃを貸してあげたり、子守唄を歌ってあげたり。ショートステイを引き受けるたびに息子の優しさや思いやりが育っているのを感じます。
夫婦の間でも、「今日はよく笑ってたね」「ミルクの量が増えたね」など、ショートステイでお預かりするお子さんについての会話が増えました。夫は子どもの送り迎えを手伝ってくれることもあり、本当に感謝しています。普段は少し無口な夫が、預かった子に優しく話しかける姿を見ると、いつもほっこりした気持ちになります。
ショートステイがもたらす利点
子どもたちの心のケア
ショートステイ里親が提供する家庭的環境は、子どもたちの心のケアに様々な利点をもたらします
- 自己肯定感の育成:
- 家庭での温かい関わりを通じた自己肯定感の向上
- 「大切にされている」という実感を得られる
- 生活リズムの維持
◦通りの生活リズムを維持できる
◦見知らぬ環境に置かれることによる不安やストレスの軽減

ショートステイ受け入れの前にお預かり予定のお子さんが日頃どのようなタイムスケジュールで1日を過ごしているか里親に伝えられます。お風呂や食事の時間も無理のない範囲でお預かりするお子さんに合わせるようにしています。
3.学習環境の継続:
- 普段通りの学校や保育所に通い続けることによる安心感
- 学習の遅れを防ぐことによる自信の維持
4.地域とのつながりの維持:
- 友達との関係性を維持できる
- 地域の中での所属感を失わない
子どもは安全で安心できる家庭環境の中で、特定の大人と安定した愛着関係をつくることで、自己肯定感を育み、よりよい対人関係を築く力をつけていきます。ショートステイ里親は、一時的な分離状況においても、このような家庭的な関わりを提供することで、子どもの心の健全な発達を支援しています。
ショートステイ先での生活を通じた成長
ショートステイ里親家庭での生活は、子どもたちに多様な経験と成長の機会を提供します
- 多様な家庭生活の経験
- 異なる家庭環境や生活様式に触れることでの視野の拡大
- 様々な家族との関わりを通じた社会性の向上
- 新たな関係性の構築
- 里親家庭の子どもたち(実子を含む)との関わり
- 里親との信頼関係の形成
- 適応力と柔軟性の向上
- 新しい環境への適応経験
- 変化に対応する力の養成
- 社会的スキルの獲得
- 異なる家庭内のルールやコミュニケーション方法への適応
- 多様な人間関係の中での振る舞い方の学習
- 自立心の育成
- 親元を離れて過ごす経験を通じた自立心の芽生え
- 自分でできることの拡大

ショートステイ里親の利用者からは、「お泊りしたおうちの子と一緒に遊んで楽しかった」「いつもの学校に通えたのがうれしかった」などの声が寄せられています。
最初は家族と離れて泣いていても、しばらく話していると自分で気持ちを切り替え、周りに適応しようと努力し馴染んでいく子どもたちにいつも感心させられます。
また、興味深いことに、私の息子にとっても預かった子ども達との関わりはたくさんの成長の機会となっています。多くの里親が「わが子が、預かった子どもの世話を通して思いやりのある行動が自然にできるようになった」と感じています。
ショートステイの利用方法
福岡市の子どもショートステイの利用方法は以下の通りです:
- 申請窓口:
- 各区役所の子育て支援課が窓口となります
- 里親での預かりを希望する場合は、申請時にその旨を伝えることが重要です
- 利用条件:
- 18歳以下の子どもが対象
- 原則7日以内(最大2週間まで)の利用が可能
- 利用料金(日額):
- 生活保護受給世帯、母子・父子世帯、市県民税非課税世帯:無料
- その他の世帯:2歳未満5,350円、2歳以上2,750円
ショートステイ、その舞台裏と現実
ショートステイが決まるまでには、コーディネーターさんの見えない努力があります。申請後、「どの里親家庭が今回のお子さんに最適かな?」「ショートステイ希望日に里親さんのスケジュールに空きはあるかな?」と、コーディネーターさんが丁寧に日程調整をしてくれます。
ショートステイを利用されるママさんたちの多くは、育児疲れや産後うつなどでメンタルがボロボロなのに我慢して、ギリギリまで一人で頑張ってしまう傾向があります。どうしても無理になって極限状態でHELPを出してくるのです。すると緊急で今日、明日預かってもらわないとママさんの心身が危ない状態になっている事があります。コーディネーターさんは里親さんへ何本も電話をかけて対応できる里親を探すことになります。
日程が直前になればなるほどみんな予定があってなかなか受け入れ先が見つからず遠方の里親さんになったり、数日のステイなのに子どもさんがいくつかの里親さん宅を転々としたりすることになってしまいます。
こんな風に、ショートステイ希望日が迫っているときには、すでにコーディネーターさんや里親さんのスケジュールが埋まっていることもあり、希望通りに受け入れができないこともあるんです。特に週末は、子どもを預けたいご家庭が集中します。ある地域では週末の申し込みが平日の3倍以上あるとか。でも里親さんやコーディネーターさんの数には限りがあり、人材不足で泣く泣くお断りすることもあるそうです。
「迷惑をかけたくない」「みんなはできているのに、私だけできないなんて‥」と頑張りすぎないでください。しんどい時は誰かを頼ってゆっくり休むことも必要です。心身の不調を感じたら、早めに相談してください。
まとめ
ショートステイ里親制度は、子育て家庭のセーフティネットとして福岡市で確実に根付きつつあります。一時的な養育の困難に直面した家庭を支え、子どもたちに家庭的な環境を提供するこの取り組みは、核家族化が進み、地域のつながりが希薄化する現代社会において、ますます重要な役割を担っています。
この制度の真の価値は、単に「子どもを預かる場所」を提供するだけでなく、親子がともに成長できる機会を創出している点にあります。保護者はリフレッシュや必要な時間を得ることで心に余裕を持ち、子どもたちは多様な大人との関わりを通して社会性を育んでいきます。また、里親家庭にとっても、社会貢献の喜びや自分の家族の成長といった豊かな経験がもたらされます。
福岡市のショートステイ里親制度がさらに広がり、より多くの家庭が支え合うことで、「子育ては社会全体で行うもの」という意識が浸透していくことを願ってやみません。子育て支援の新たな形として、この制度の可能性は無限に広がっています。子どもたちの笑顔と、保護者の安心のために、ショートステイ里親の取り組みがさらに多くの方に知られ、支えられることを心から期待しています。
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