静かなSOS – 発達課題を抱える子どもと家族のためのショートステイ

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みんなに知って欲しい

朝の支度に2時間かかる。お風呂を嫌がって毎日バトル。スーパーで突然泣き出して、周りの視線が痛い。そんな日々を送っていると、「私の育て方が悪いのかな」「他の子はもっとスムーズなのに」と自分を責めてしまうことでしょう。

友人や家族に相談しても、「子どもってそんなものよ」「みんな大変だから」と言われる。確かにそうかもしれない。でも、なぜこんなに毎日が辛いのだろう。なぜ他の人には簡単そうにできていることが、こんなにも困難なのだろう。

ショートステイ利用者には、そう感じている方も少なくありません。親が感じる「育てにくさ」は気のせいではないかもしれないともう一度疑ってみてほしいです。今回は「その困難には理由があるのでは?」という疑問に気づいて欲しくて書いていきます。

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ある家庭のエピソード

4月から入園予定の3歳男の子 Iくん

ショートステイの依頼がきた時には、「3歳なのにまだ発語がない、好き嫌いが激しい、嫌いなメニューがあると癇癪を起こす」と聞かされていました。初めは「私にできるかな‥」と不安もありましたが、3日間という期間限定のお預かりなので、「3日だけなら頑張れるかな」と挑戦してみることにしました。

ご自宅までお迎えに行き、父親、母親、兄がいることをいりました。家族仲は良さそうだったので、家庭での会話がないために子どもの発語がないかもしれないと予想していましたがその可能性はゼロになりました。

Iくんの好き嫌いが激しく、食卓に気に入らないものがあるとお皿をひっくり返し癇癪を起こす。母親は好き嫌いをなくして欲しくて様々な食材にチャレンジして欲しく頑張っているのに、毎日食べ物をひっくり返されてしまうことに疲弊し、ショートステイを依頼したということでした。

父親、母親、兄で見送ってくださいましたが、Iくんは泣くことも家族に手を振ることもありませんでした。
そのまま我が家に到着。普段なら、我が家についたばかりのお子さんは、「このおもちゃで遊んでいい?」「テレビ見てもいい?」「この部屋に行っていい?」などとテンションが上がり、興味のあるものに真っ直ぐに向かうのですが、Iくんは顔色一つ変えずにた立ち尽くしたままでした。
「ここに座っていいよ。」とリビングのテレビの前に座らせ、「テレビ見る?」と聞くとうなずく。「話さないけれど、意味は伝わっているな。」と感じました。「どれを見る?」と聞いても黙っているので「アンパンマンでいい?」と聞くとうなずく。意思疎通は全てこんな感じでした。

心配していた好き嫌いと、癇癪でしたが、夕飯は私が用意したハンバーグも癇癪を起こすことなく完食し、入浴中も一言も話すことなく終了。お布団に入って「おやすみ。また明日遊ぼうね」と声をかけても返事はなく、初日は終了しました。

翌日は土曜日。Iくんは乗り物が好きだと聞いていたので、近所ではたらく車が集まるイベントにみんなで出かけました。
ADHDの可能性があるなら、興味のあるものを見たら走り出してしまうかもしれないと思い、Iくんとしっかり手を繋ぎ走り出すのを警戒していました。しかしIくんは走り出すことはありませんでした。ADHDの特性である衝動性はないようです。「好きなものがあっても感情を出さないのか‥」と少し悲しく思っていたら、パトカーの前に来たときに私の顔を見ながらパトカーを指差しました。
「パトカーの方に行きたいの?」と聞くとうなずいてくれました。初めてIくんが私に意思表示をしてくれたことがとても嬉しかったです。
パトカーに近づき、「パトカー乗れるんだってよ。乗ってみる?」と聞くといつもより少し早くウンウンとうなずき、パトカーに乗るための列に並びました。表情は特に変わらないものの、Iくんのうなずきの速さと回数からワクワクと喜びがあるのだと感じました。、

昼食は外食。お子様ランチを食べましたが、ご飯も残さず食べられました。
夕飯は自宅でカレーを食べましたがこれも完食でした。
最終日の朝食はおにぎりと味噌汁と卵焼きに鮭、少しチャレンジしてほうれん草の胡麻和えを出してみましたが、嫌がったり癇癪を起こすこともなくショートステイは終了しました。

Iくんは初めてのショートステイ利用に緊張していたのか、感情が表情に出ることがなく、子どもらしさがない印象でした。母親が心配していたような癇癪はなく、「なんで里親宅では食べるのに私の料理は食べてくれないの」とさらに母親を悩ませてしまったのではないかと感じました。
翌月の2回目のショートステイ終了時には、母親からお願いされてIくんが食べた食事のメニューを教えて欲しいとのことで、毎日3食の食事メニューと、野菜は小さくきる、出来るだけ野菜が見えないようにするなどの食べさせるための工夫を書いてお渡ししました。
その後「うちでも食べましたー!」という喜びの報告はなかったので、Iくんはいつも通り自宅では癇癪を起こしてしまったのではないかと思います。Iくんが私の家では遠慮していて、お家では素直に気持ちを表現できるのでなのではないかと推察しました。

発達課題と家庭の負担

Iくんのような特性は、自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害、あるいはその傾向(いわゆるグレーゾーン)に見られることがあります。これらの特性は、脳の発達の個人差によるもので、決して親の育て方や愛情不足が原因ではありません。

多くの場合、親が「何かが違う」と気づくのは、保育園や幼稚園、小学校での集団生活が始まってからです。家庭では気にならなかった行動も、集団の中では目立ってしまう。先生から「お家での様子はどうですか?」と聞かれ、初めて我が子の困り事に気づく親も多い。

Iくんの場合、母親が2人目の育児だったということから、兄とは違う育てにくさに気づき、ショートステイを利用しました。発達の面で不安を持ち、ショートステイスタッフにも相談したそうで、保育園に入園するのを機に発達検査を受けることを決めたそうです。

発達に課題のある子どもは、日常生活の中で多くのエネルギーを消耗しし、新しい環境への適応、社会的なルールの理解、感覚の過敏さへの対処など、周りには見えない努力を重ねています。そのため、家に帰ると疲れ果てて、癇癪や問題行動として表れることがあります。

親もまた、常に子どもの状態を気にかけ、周囲への配慮を怠らない日々を送っています。買い物一つでも、子どもが混乱しないか、周りに迷惑をかけないかと神経を使う。こうした日々の積み重ねで疲弊し、育児を困難にしていきます。

これは決して親の能力不足ではありませ。適切な理解と支援があれば、親子ともにもっと楽に生活できるはずです。

ショートステイの可能性

ショートステイは、一時的に子どもを預かってもらえる支援制度です。数時間から数日間、発達に問題があると分かれば専門のスタッフが子どもの世話をしてくれます。「子どもを手放すようで申し訳ない」と感じる親も多いが、実際に利用した家族からは異なる意見が聞かれます。

「久しぶりに一人の時間を持てて、冷静に子どもの特性について調べ、考えることができました」(4歳の娘を持つ母親)

「子どもが『また行きたい』と言ったのが印象的でした。いつもと違う大人と関わることで、意外と新しいことにもチャレンジ出来るという一面を見せてくれました」(6歳の息子を持つ父親)

ショートステイの利用により、親は一時的に子育てから解放され、自分自身を見つめ直す時間を得られる。疲れた心と体を休めることで、また子どもと向き合うエネルギーを回復できると思います。

子どもにとっても、いつもと違う環境で過ごすことは新しい体験です。家族以外の大人に認められ、褒められる経験は、自己肯定感の向上につながることもあります。また、ショートステイのスタッフに相談することで、子どもとの関わり方のヒントを得られることも多いです。

支援を広げるには

しかし、まだまだショートステイの存在を知らない家族は多いです。制度はあっても、「子供を預けるなんて」「私の時は預けたりなんかしなかった」という方もまだまだ多く、利用のハードルが高いのが現状です。

まず必要なのは、制度の周知です。子育て支援センター、保育園、学校など、親が足を運ぶ場所での情報提供を充実させる必要があります。また、利用手続きの簡素化や、経済的な負担の軽減も重要です。

発達障害への正しい知識が広まれば、「親の甘やかし」「しつけの問題」といった誤解も減るでしょう。専門家だけでなく、地域住民一人ひとりが、多様な子どもたちの存在を受け入れる社会を作っていく必要があります。

学校や保育の現場との連携も重要だ。担任の先生がショートステイの存在を知っていれば、適切なタイミングで保護者に情報を提供でき、保護者の育児疲れを解消できます。また、ショートステイでの子どもの様子を家庭や保育園と共有することで、より一貫した支援が可能になります。

相談窓口の一元化、支援者同士のネットワーク構築、家族向けの研修会の開催など、様々な試みが行われていますが、その認知度はまだまだ低いです。

 

まとめ

子どもから「離れること」は、決して悪いことではありません。むしろ、より良い親子関係を築き、また子育てをしていくための勇気ある選択です。

親が自分自身を大切にすることは、結果的に子どもを大切にすることにつながります。疲れ切った状態で子どもと向き合うよりも、心に余裕を持って接する方が、お互いにとって幸せなのではないでしょうか。

発達に課題のある子どもとその家族は、見えない困難を抱えながら日々を過ごしています。彼らが必要としているのは、批判や助言ではなく、理解と具体的な支援です。

あなたの周りに、同じように悩んでいる人はいないでしょうか。もしいるなら、まずは話を聞いて、適切な支援につながる情報を提供してほしいです。小さな理解の輪が広がることで、すべての子どもと家族がより良い環境で過ごせる社会を作っていけるはずです。

静かなSOSを見逃さないで。支援を求めることは恥ずかしいことではないと、もっと多くの人に知ってもらいたいです。

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