初めてのショートステイは、親にとっても子にとっても不安がいっぱい。お子さんを預けることへの罪悪感や、お子さんが知らない環境で過ごすことへの心配など、様々な思いが頭をよぎるものです。
けれど、子どもの「またあの家に行きたい」という何気ない言葉が、母親にとってどれほど大きな安心だったか…。その一言で、すべての不安が安堵に変わった瞬間を経験されたお母さんたちがいらっしゃいます。
今回は、そんな継続利用につながったエピソードをご紹介します。子どもたちの素直な反応が、親御さんの心をどのように変えていったのか、リアルな体験談をお伝えしていきます。
子どもが「また行きたい」と言った瞬間
乗り物好きな男の子
5歳の男の子Sくん
初めてのショートステイの日、ママの影に隠れてやってきたSくんは恥ずかしそう。私が「こんにちは。」と声をかけてもモジモジ。乗り物が好きということで、「車に乗って行こう!」と誘うと喜んでついてきました。
「大丈夫かしら…」と心配そうなママでしたが、Sくんは車に乗ることに興味が湧いていて、ママの方が不安そうに手を振っていました。
2泊3日のショートステイ。
初日は科学館に行きました。科学館でプラネタリウムで星を見たり、ゲームをしながら宇宙について学んだりしました。初めての体験に、ワクワクドキドキしながら楽しめた様子でした。
2日目は空港へ。飛行機が離発着するところを見て大興奮。展望デッキで飛行機に手を振り、大はしゃぎしていました。電車好きなSくんでしたが、空港に到着して数分で飛行機も大好きになっていました。
3日目。「今日はどこへ行く?」と朝からすでにワクワクしているSくん。
「海に行ったことある?」と聞くと、「ない!」と答えたので、「じゃあ行ってみる?」と尋ねると「うん!」と答えました。
海ではママに渡す貝殻を探し、帰宅するまで無くさないよう小さな手で握りしめていました。
3日間息子と兄弟のように遊び、いろんなところを満喫したSくん。初めてのショートステイの翌週には次のショートステイの依頼がありました。
「Sくんがすごく楽しかったようで、また同じ里親さんがいいとの事でした。」と聞いた時はとても嬉しかったです。
最初は不安そうだったママも、息子が楽しんで「また行きたい」と言ってくれたら実家や友達の家にお泊まりしてもらう感覚で、子どもを預けられるようになったと思います。
まだ話せない男の子
8ヶ月の男の子Aくん。
摂食障害で入退院を繰り返す母親。普段は父親と祖母でAくんの面倒を見ていましたが、父親が育児疲れを区役所に相談したことで、ショートステイ里親を勧められました。
ショートステイ当日。Aくんの家までお迎え。祖母はAくんがショートステイ里親を利用するということを父親から当日聞かされ、納得できてない様子でした。
「大丈夫でしょうか?急に息子が預けると決めてしまって‥。」「私も高齢なのでこの子の面倒を見るのは大変だけど、よそ様に預けるのは‥。」祖母が何か言おうとするたびに父親が「大丈夫だって。」「母さんより若いし、いつも子どものお世話してる方なんだよ。」と話を遮っていました。
私とスタッフさんも「大丈夫ですよ。」とお声かけしましたが、不安そうにしていました。
お預かりから数時間後祖母が心配し、SOS子どもの村へ電話されたようで、少しでも安心してもらうため、毎日17時ごろお子さんの1日の様子をお伝えするようにしました。普段お出かけをしたりできないということで、初めて公園で遊んだ写真、息子のおもちゃで遊ぶ写真などをお送りしました。
3泊4日のショートステイが終了したあと再びAくん宅へ。
一番に玄関先に出てきた祖母が真っ先にAくんを抱きました。そしてAくんの顔を見るなり、「あら!いつもより穏やかな顔してるね。いっぱい構ってもらって満足したんやろね。」とおっしゃいました。
1日の様子を毎日報告して安心してもらった甲斐があったなぁと思いました。
2度目は11ヶ月後。また母親が入院してしまったのでショートステイを利用されました。一人で歩けるようになり、体も大きくなったAくん。2度目は最長の1週間のお預かりでしたが、祖母は安心して預けてくださったみたいで、今回は心配して電話をかけてくることはありませんでした。
ショートステイ里親を利用する方の中には、祖父母と同居して生活している方もいらっしゃいます。祖父母に相談なく父親や母親がショートステイを決めた場合、祖父母はショートステイの仕組みもわからずなぜ子どもを知らない家庭に預けるのかと不安になります。子どもを預けることを極端に心配されている場合は、少しでも安心してもらうため、お子さんの1日の様子を里親の負担にならない範囲で報告させていただいています。
不安を抱えた祖母に「1日の報告をする」という提案をしてくださったスタッフさん。ちょっとした工夫で、安心して預けていただくことができ、次回の利用にもつながりました。
母親たちのリアルな声
最初は抵抗があった
多くのお母さんが共通して感じているのが、最初の心理的な抵抗です。「他人の家に預けるなんて…」「知らない人に迷惑をかけるのでは」「子どもが寂しい思いをするのでは」といった気持ちです。
特に、これまで親族以外に子どもを預けた経験のないお母さんにとって、ショートステイの利用は大きな決断だと思います。申し込みの電話をするだけでも、何日も迷われた方もいらっしゃいます。
しかし、実際に利用してみて子どもの笑顔を見ると、そんな心配は杞憂だったと気づかされます。「子どもって、大人が思っている以上に順応性があるんですね」と言ったお母さんの言葉が印象的でした。
「頼ってもいいんだ」と思えた瞬間
お子さんが楽しく過ごせたことが、お母さんにとって一番の安心材料になると思います。「子どもが嫌がっていないなら」「子どもが喜んでいるなら」という気持ちの変化が、利用への抵抗感を和らげていったのです。
「一人で頑張らなくても、頼ってもいいんだ」と思えた瞬間について、あるお母さんはこう話してくださいました。「子どもが『楽しかった』と言ってくれて、初めて自分も息抜きしていいんだと思えました」。
中には「もっと早く知っていれば、もっと早く利用していれば、一人で抱え込まなくても良かったのに」という声も聞かれます。ショートステイの良さを知っている、ショートステイを利用されている方はまだまだ少ないです。
ショートステイをリピートする理由
継続利用される理由の多くは、子ども自身が希望しているからです。「また行きたい」という子どもの声が、お母さんの背中を押してくれているのです。
里親家庭でリラックスして過ごす我が子の様子を見て、「ここなら安心して預けられる」という信頼関係が築かれていきます。最初は「迷惑をかけているのでは」と心配していたお母さんも、里親さんが本当に子どもを可愛がってくださっている様子を見て、安心されるようになります。
そして何より、いざという時の「頼れる存在」ができたという安心感は計り知れません。急な仕事や体調不良、家族の事情など、どうしても子どもの面倒を見られない時に、「あそこならお願いできる」という選択肢があることで、日常生活における心の余裕が生まれます。
利用を迷っている方へ伝えたいこと
初回利用は確かに勇気がいるものです。でも、実際に利用された多くのお母さんが口を揃えて言うのは子どもが「楽しかった」と笑顔で教えてくれるということです。
親が心配していることと、子どもが実際に感じることは違うことが多いのです。ママと離れる時は泣いていたお子さんも、ママがいないと割り切ったら泣くのをやめ、楽しむ方へ自然と切り替えます。大人の不安や先入観とは裏腹に、子どもたちは新しい環境に意外とすんなりと馴染み、里親家族との触れ合いを楽しんでいます。
一度経験してみると、見える世界が変わります。「こんなに温かく迎え入れてくださる方々がいるんだ」「子どもって思っているより強いんだ」「頼ることは悪いことじゃないんだ」という発見があります。
短期間のステイが、親子の関係にも良い影響を与えることもあります。少し離れる時間があることで、お互いの大切さを再認識したり、お母さんがリフレッシュすることで、より穏やかな気持ちで子どもと向き合えるようになったりします。
まとめ
子どもからの「また行きたい」という言葉は、ショートステイ里親にとって最高のフィードバックです。その素直な気持ちが、お母さんの不安を安心に変え、信頼関係の構築につながり、継続利用への道筋を作ってくれます。
子どもたちが示してくれる反応は、大人の心配を超えた純粋なものです。彼らの「楽しかった」「また行きたい」という言葉が、お母さんの心を軽やかにし、「頼ってもいいんだ」という気持ちにさせてくれるのです。
ショートステイは単なる一時預かりサービスではありません。親子の心を支える居場所として、家族みんなの生活に温かい安心感をもたらしてくれる存在なのです。初めての利用には勇気が必要かもしれませんが、子どもたちの反応がきっと新しい扉を開いてくれるはずです。
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