一人で抱えすぎていませんか?
深夜、子どもがようやく眠りについた静寂の中で、ふと涙がこぼれたことはありませんか。「今日も一日、なんとか乗り切った」と思いながらも、心の奥で「このままでいいのだろうか」という不安が渦巻いている。
子育ては本来、家族や地域の人々が手を取り合って行うものでした。しかし現代社会では、いつの間にか「一人で頑張ること」が美徳とされ、「誰かに頼ること」が弱さの象徴のように扱われがちです。特に母親に対しては、「母親なんだから当然」「愛情があれば乗り越えられる」といった無言のプレッシャーが重くのしかかっています。
「誰かに頼りたい」と心の底で叫んでいても、罪悪感や遠慮が先に立ち、結局は一人で抱え込んでしまう。そんな現実の中で、多くの親が孤独感と疲労感に押しつぶされそうになっています。
今回は、そうした”孤育て”の現実と、その中でショートステイという支援制度がどのような意味を持つのかを、一緒に考えていきたいと思います。
「孤育て」の現場から見える親の葛藤
「孤育て」という言葉をご存知でしょうか。これは「孤独な子育て」を表す造語で、現代の子育て環境を的確に表現しています。
夫婦関係の悪化や離婚、実家との距離、転勤による環境の変化など、さまざまな理由でワンオペ育児に陥ってしまう家庭が増えています。特に核家族化が進んだ現代では、子育ての知識や経験を共有する相手が身近にいないことも珍しくありません。
多くの親が口にするのは、「相談や愚痴をこぼしたらダメな親だと思われるのでは…」という不安です。周りを見渡せば、SNSには楽しそうな子育ての様子があふれ、ママ友たちは皆余裕があるように見える。自分だけが苦しんでいるような錯覚に陥り、助けを求めることさえできなくなってしまいます。ある母親は振り返ります。「子どもが2歳のとき、夜泣きが続いて本当に限界でした。でも『母親失格』と言われるのが怖くて、誰にも相談できずにいました。結局、児童相談所に電話をかけたのは、子どもに手を上げそうになった翌日でした。もっと早く知っていれば、もっと早く頼っていれば、あんなに追い詰められることはなかったと思います」
このような声は決して珍しいものではありません。支援が必要な時に適切な情報にたどり着けない、あるいは心理的なハードルが高すぎて利用できないという現実があるのです。
預けることは、逃げじゃない
ショートステイを利用することに対して、多くの親が感じるのは罪悪感です。「子どもを預けるなんて、母親として情けない」「逃げているだけではないか」そんな自分を責める声が心の中で響きます。
しかし、預けることは決して逃げではありません。それは自分自身と子どもの両方を守るための、勇気ある選択なのです。
ショートステイを利用することで、親の心と体に「隙間」ができます。この隙間こそが、実は子育てにとって非常に重要なのです。24時間365日、子どもと向き合い続けることは、どんなに愛情深い親でも心身に大きな負担をかけます。少しの休息があることで、改めて子どもと向き合うエネルギーを取り戻すことができるのです。
また、子どもにとっても「違う環境」は良い刺激になることがあります。いつもとは違う大人との関わりや新しい遊び、異年齢の子どもたちとの交流は、子どもの社会性や適応力を育む貴重な機会となります。
「母親なんだから頑張らなきゃ」「完璧でなければいけない」という思い込みは、親を追い詰めるだけです。完璧な親など存在しません。大切なのは、自分の限界を知り、適切な支援を受けながら、子どもと一緒に成長していくことなのです。
ショートステイで救われた声
ここで、実際にショートステイを利用した家族の体験談をご紹介します(プライバシー保護のため、)。
3歳の息子を育てるシングルマザーのSさん
仕事と育児の両立に疲れ果てていました。最初は「他人に子どもを預けるなんて」と思っていました。でも、役所の方が「お母さんが元気でいることが、子どもにとって一番大切なことですよ」と言ってくださったので、1泊だけショートステイ里親を利用してみることにしました。
初回のショートステイ利用時は、罪悪感でいっぱいでした。時計を気にしては「今何してるかな?泣いていないかな?」と気になってスタッフさんに連絡してしまいました。心配している私に、スタッフさんが里親さんと連絡をとってくださって写真を送ってくださいました。楽しそうに公園で遊んでいる息子の写真にとても安心し、夜はゆっくり眠れました。
迎えに行ったときの息子の笑顔を見て、最初の罪悪感は無くなりました。。息子は楽しそうに過ごしていて、里親さんの家で作ってもらった折り紙の手裏剣を大事そうに持っていました。「また行きたい」と笑う子どもの笑顔、私も久しぶりにゆっくり眠れて、「ああ、これでいいんだ」と思えました。
双子の育児に疲れていたTさんの場合
シングルファザーで、昼間は母が育児を手伝ってくれていましたが、毎日仕事の後は双子の世話に追われていました。ショートステイを利用する前は、「人に頼ること=悪いこと」だと思っていました。シングルマザーだと仕事も育児もやってるのに、私が両立できないのはおかしいと思っていました。でも、出張の予定が入り、仕方なく二泊お預かりしてもらったとき、子どもたちと向き合う気持ちが全然違っていることに驚きました」
この体験を通じて、「頼ることも子育ての一部」だと実感しました。現在は月に一度6日程度、計画的にショートステイを利用し、心身のリフレッシュを図っています。
これらの体験談に共通するのは、ショートステイを利用することで「人に頼ること=悪いこと」ではないと実感した瞬間の解放感です。罪悪感をなくし、心身ともに疲れから解放された時、親は本来の力を取り戻し、より良い子育てができるようになると思います。
社会に必要な「支え合いの文化」
「相談できる人がいない」ということ自体が、実は支援を必要とするサインです。孤立している親を責めるのではなく、そうした状況を生み出している社会構造に目を向ける必要があります。
ショートステイをもっと「当たり前の選択肢」にするために、私たちにできることはたくさんあります。
まず、制度の周知です。多くの自治体でショートステイ制度がありますが、その存在を知らない家庭も少なくありません。子育て支援センターや保育園、小児科などでの情報提供を充実させることが大切です。
次に、偏見の払拭です。「子どもを預ける=悪いこと、甘え、愛情不足」などという誤った認識を改め、「適切な支援を受けることは賢明な選択」という価値観を社会に浸透させる必要があります。
地域コミュニティの役割も重要です。日頃からの声かけや気配り、困ったときに相談できる関係性の構築が、孤育てを防ぐ大きな力となります。
支援者側も、利用者が罪悪感を抱かないよう、温かく受け入れる姿勢が求められます。「よく頑張っていらっしゃいますね」「時には休息も必要ですよ」といった言葉かけで救われる親がいると思います。
まとめ
「ひとりで頑張ること」と「助けを求めること」、どちらが本当の強さでしょうか。
私は、自分の限界を知り、適切な支援を受けながら子育てを続けることこそが、真の強さだと思います。それは決して弱さではなく、子どもと自分の両方を大切にする、責任ある選択なのです。
あなたの周りにも、「ちょっと頼りたい」と思いながらも、一人で抱え込んでいる人がいるかもしれません。そんな時、私たちにできることは何でしょうか。制度の情報を伝えることでしょうか。話を聞くことでしょうか。それとも、「頼ってもいいんだよ」という温かいメッセージを送ることでしょうか。
子育ては一人でするものではありません。社会全体で支え合いながら、次世代を育んでいくものです。ショートステイという制度も、その支え合いの一つの形なのです。
どうか、ひとりでも多くの親が、罪悪感を抱くことなく必要な支援を受けられる社会に。そして、子どもたちが愛情に包まれながら健やかに成長できる環境を、私たち皆で作っていけたらと思います。
「預けること」は弱さではありません。それは、愛情深い親だからこその、勇気ある選択なのです。
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