福岡市でショートステイ里親を始めてから3年が経ちました。当初、私たち夫婦は「一人っ子の息子が初めて会う子どもと仲良くできるだろうか」「ショートステイをすることで息子に悪影響はないだろうか」という不安を抱えていました。
実際、初めてお子さんをお預かりした時から3年間の経験を通して、息子には私たちが想像もしていなかった素晴らしい変化が現れています。
今回は、ショートステイ里親として活動する中で見えてきた、息子の心の成長と変化について、リアルな体験談をお伝えします。これからショートステイ里親を検討されている方にとって、参考になれば幸いです。
ショートステイ里親を始めた理由
ショートステイ里親を始めた理由の一つに、「一人っ子の息子に兄弟がいる環境を味わってほしい」という思いがありました。
夫は4人兄弟、私は3姉妹の環境で育ちました。小さい頃を振り返ると、兄弟姉妹と一緒に遊んだり、時には喧嘩をしたり、困った時に助けてもらったり、何かに協力したりと、兄弟がいたからこそできた貴重な体験がたくさんありました。そんな兄弟姉妹ならではの良さを、息子にも経験してほしいと思っていたのです。
ショートステイ里親は長くても1週間のお預かりです。普段は一人っ子の良さを十分に満喫しながら、お預かり期間中だけは兄弟がいる環境を体験できる。このメリットは大きいのではないかと考えました。
当時5歳だった息子に、ショートステイ里親制度について完璧に理解してもらうのは難しいことでした。そこで、「おうちに赤ちゃんが来ても良い?」「ひとりぼっちになっちゃう赤ちゃんがいるんだけど、ママが代わりにお世話してもいい?」といった、息子にもわかりやすい言葉で説明しました。
息子にとっては「お友達が遊びに来る」という感覚だったようです。
初回のお預かり
初めてのお預かりは、7ヶ月の男の子でした。
いきなりできた可愛い弟の姿に、息子は「小さいねぇ、かわいいねぇ」と興味津々の様子です。私が「いないいないばぁが好きそうだよ」「このおもちゃを見せてみる?」などと声をかけると、「うん!」と元気よく返事をして楽しそうに遊んでいました。
ところが、ミルクの時間になり、私が赤ちゃんにミルクを飲ませ始めると、息子の様子が一変しました。部屋の隅で膝を抱えてうつむいているのです。
「どうしたの?」と聞いても、何も答えません。
ミルクを飲ませ終えてから、私は息子に「ママがとられた気分になっちゃった?」と尋ねました。息子は小さな声で「うん…」と答えます。
「この赤ちゃんはね、ママがお世話しないと死んじゃうんだよ。お腹が空いてミルクが飲めなかったら、かわいそうでしょ?でもママはAくんのママだから、この子の本当のママになるわけじゃないよ。ママが一番好きなのはAくんだよ」
そう伝えてもまだ息子は不安げな表情を浮かべていました。私は息子をぎゅっとハグして「ママはAくんが大好きだよ。Aくんが小さい時もこうやってミルクを飲ませてたんだよ。」と言うと、「ほんと?」と息子。「うん。小さくてとっても可愛かったよ。」と少し息子が小さい時の思い出話をしました。そして「ママと一緒にこの子を助けるお手伝いをしてくれる?」と伝えました。すると、いつもの息子の笑顔が戻ってきました。
ショートステイで我が家にやってきた赤ちゃん。
初めは小さな赤ちゃんへの興味と可愛さで楽しく遊んでいた息子でしたが、赤ちゃんを抱いてミルクを飲ませる私の姿に、私を取られるのではないかと赤ちゃんにヤキモチを妬いていじけていました。私は息子が一番大切なこと、赤ちゃんのお世話をしないと死んでしまうかもしれないことを伝え、一緒に手伝ってもらえるようお願いしてみました。
息子もおむつをとってくる、タオルケットをかけてあげるなど、赤ちゃんのお世話を一緒に手伝うことでお兄ちゃんとしての役割を経験できたのではと思います。
3年間で見えてきた息子の変化
4歳Rちゃん、3歳Aくん兄弟と息子のエピソード
子供達の夕飯、入浴、歯磨きも終わり、さて寝ようかという時間。みんな布団に入っていつもは寝室の電気は消したまま寝るはずなのに、寝室の明かりがついたままでした。「誰?電気つけたの?もう寝るよー」と声をかけると息子が「RちゃんとAくんに絵本読みたいからちょっとだけ待って。」と言いました。息子の手には自分が小さい頃に大好きだった絵本がありました。「幼稚園の時に自分が好きだった本を、二人にも見せたいと思ったのかなぁ」とほっこりした気持ちになりました。
RちゃんとAくんはもう1年以上前からショートステイを利用していて、定期的に我が家に来てくれています。
2人の兄弟をお預かりする時、息子は「ママと離れて寂しいと思うから」という言葉をよく使うようになりました。この2人は何度もうちに来ているので、息子もママと離れている時間が長いということを理解しているのだと思います。
最近では、2人のショートステイ利用の予定が決まると、息子が自分から2人のお気に入りのおもちゃを出してきたり、一緒に食べるおやつを準備して2人が来るのを楽しみに待っています。
お手伝いを積極的にするように
現在の息子は、お預かりのお子さんが来ると率先してお手伝いをしてくれるようになりました。
「赤ちゃんのおむつ持ってくるね」「この子のお茶、僕が用意する」など、自分から声をかけて行動します。以前は私に頼まれてから動くことが多かったのですが、今では状況を見て必要なことを判断し、行動できるようになってきています。
特に印象的だったのは、2歳の女の子をお預かりした時のことです。その子が泣いていると、息子は自分のお気に入りのぬいぐるみを持ってきて「この子と寝る?」と優しく声をかけていました。誰に言われるでもなく、相手の気持ちを思いやって行動する姿に、成長を感じました。
年下の子への思いやりが芽生えた
ショートステイ里親を始めてから、息子の年下の子に対する接し方が大きく変わりました。
最初の頃は、自分より小さな子が注目を集めることに戸惑いを感じていましたが、今では自然と「お兄ちゃん」の役割を果たしています。食事の時には「こぼさないように気をつけてね」と声をかけたり、危険な場所に近づこうとすると「そっちは危ないよ」と教えてあげたりします。
公園に遊びに行く時も、小さな子の歩くペースに合わせたり、転んだ時には「大丈夫?」と手を差し伸べたりと、相手の立場に立って考える力が身についています。
なぜこのような変化が起きたのか
多様な子どもとの関わり体験
3年間で様々な年齢、性格の子どもたちと関わったことが、息子の成長に大きな影響を与えています。
0歳の赤ちゃんから5歳の子まで、それぞれ異なるニーズや特性を持つ子どもたちとの関わりを通じて、息子は「人それぞれ違って当たり前」ということを自然と学んでいます。この経験が、相手の立場に立って考える力や、状況に応じて対応を変える柔軟性を育んでいるのだと思います。
家族の一員としての役割意識
お預かりの子どもたちを迎える準備や、一緒に過ごす日々の中で、息子は自分も「お世話をする側」の一員であることを意識するようになりました。
「ママの手伝いをするのが僕のお仕事なんだ」「小さい子を守ってあげるのが僕の役割なんだ」という自覚が、責任感や行動力の向上につながっています。また、両親と同じように誰かの役に立っているという実感が、息子の自己肯定感を高めているようです。
ショートステイ里親が子どもに与える影響
ポジティブな変化
ショートステイ里親活動が息子に与えたポジティブな影響は数多くあります。
思いやりの心、責任感、コミュニケーション能力の向上はもちろん、多様性を受け入れる寛容さや、困っている人を助けたいという気持ちも育っています。また、自分が誰かの役に立っているという実感が、自信や自己肯定感の向上にもつながっています。
一人っ子では体験できない「お兄ちゃん」としての役割を果たすことで、息子なりに成長してると実感しています。
注意すべきポイント
一方で、注意すべき点もあります。
初期の頃のように、息子が寂しさや嫉妬を感じることがあります。特に長期間のお預かりが続いた時や、手のかかるお子さんをお預かりした時には、息子への配慮が不足してしまうことがありました。
また、息子に「お兄ちゃんだから」という期待をかけすぎないよう注意が必要です。息子もまだ子どもであり、甘えたい気持ちや自分だけの時間を必要とすることを忘れてはいけません。
家族での話し合いの重要性
ショートステイ里親活動を続ける上で、家族での話し合いは欠かせません。
お預かりが決まる前から必ず息子に相談し、息子の気持ちや都合を確認するようにしています。また、お預かり期間中も息子の様子を注意深く観察し、必要に応じて個別の時間を作ったり、息子の気持ちを聞いたりしています。
1月のお預かりの日数が増えてくるとSOS子どもの村のスタッフさんが、「息子さんに負担がかかってないですか?」と気遣ってくれることもあります。
お預かり後には、良かったことや大変だったことを家族で振り返り、次回に活かすようにしています。
まとめ
福岡市でショートステイ里親を始めて3年、息子の変化は私たち親が予想していた以上に素晴らしいものでした。
初回のお預かりでいじけてしまった息子が、今では率先してお手伝いをし、預かりのお子さんと楽しそうに遊ぶ姿を見ると、子どもの適応力と成長力に驚かされます。ショートステイ里親活動は、預かるお子さんだけでなく、実子にとっても貴重な学びと成長の機会となることを実感しています。多様な子どもとの関わりを通じて、思いやりや責任感、コミュニケーション能力が自然と育まれていく過程は、親として何にも代えがたい喜びです。
これからショートステイ里親を検討されている方には、実子への影響を心配されることもあると思いますが、適切なサポートとコミュニケーションがあれば、家族全員にとって豊かな経験となるでしょう。今後も息子と共に、多くの子どもたちの笑顔を支えていきたいと思います。
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