あなたが体調を崩したとき、子どもを安心して預けられる場所はありますか?
日々子育てに奮闘する中で、ふと「少し休みたい」と感じることはありませんか?高熱で寝込んでしまったとき、心の疲れがピークに達したとき、大切な用事で家を空けなければならないとき…。そんな時、あなたには子どもを安心して預けられる場所がありますか?
実家が遠い、頼れる親族がいない、友人に頼むのは気が引ける。現代の子育て環境では、その”少し”の時間を確保するための選択肢が、まだまだ限られているのが現実です。
「もう限界」と感じても、「母親・父親なんだから頑張らなきゃ」という無言のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、多くの親が一人で抱え込んでいます。でも、もしそんな時に安心して子どもを預けられる温かい家庭があったら、どれほど心強いでしょうか。
増えている「親の限界」が理由の一時保護
近年、子どもの一時保護の背景に変化が見られています。虐待などの深刻なケースだけでなく、「親の病気」や「うつ」「育児疲れ」が理由となるケースが半数近くを占めているのです。
これは決して恥ずかしいことではありません。親も一人の人間です。体調を崩すことも、心が疲れることもあって当然です。大切なのは、そうした時に適切な支援を受けられる仕組みがあるかどうかです。
従来の一時保護は「親子を分断する」イメージが強くありました。しかし今求められているのは、むしろ「親子をつなぐための支援」です。親が回復するまでの間、子どもを安全で温かい環境で見守り、親子が再び一緒に過ごせるようにサポートする。そんな新しい支援の形が注目されています。
「虐待ではなく、親の限界が理由の一時保護」が増えているということは、それだけ多くの家庭が支援を必要としているということ。そして同時に、「助けを求めてもいい」という意識が少しずつ社会に浸透してきている証拠でもあります。
ショートステイ里親という新しい支援の形
そんな中で注目されているのが「ショートステイ里親」という制度です。これは、里親が一時的に子どもを家庭で受け入れる仕組みで、従来の施設での一時保護とは異なる、より家庭的な支援を提供します。
子どもにとっては、施設ではなく温かい家庭で過ごすことで、より安心感を得ることができます。知らない大人との生活は不安なものですが、里親家庭では家庭的な雰囲気の中で、まるで親戚の家に泊まりに来たような感覚で過ごすことができるのです。
親にとっても、「子どもを施設に預けた」という重い気持ちではなく、「温かい家庭で見守ってもらっている」という安心感を得ることができます。これにより、「助けを求めてもいい」という心理的なハードルが大きく下がります。
実際に活動を行っているNPO法人SOS子どもの村では、多くのショートステイ里親家庭が登録し、必要な時に子どもたちを受け入れています。ある里親家庭では、「最初は泣いていた子どもが、数日後には『また来たい』と言ってくれました。親御さんも『こんなに温かく迎えてもらえて本当にありがたかった』と喜ばれていました」というエピソードがたくさんあります。
このように、ショートステイ里親は単なる「預かり」ではなく、家族と家族をつなぐ温かい支援なのです。
福岡市でも広がるショートステイ里親の輪
ここ福岡市でも、ショートステイ里親制度が整備されています。福岡市では「養育里親」「専門里親」と並んで、この「ショートステイ里親」を推進しており、必要な研修を受けた家庭がショートステイ里親に登録し、子どもたちを受け入れています。
福岡市の制度では、数日から1週間程度の短期間、親の病気や出産、介護などの理由で子どもの養育が困難になった家庭を支援します。里親家庭には適切な手当も支給され、行政のサポート体制も整っています。
支援が必要な人だけでなく、「支援をしたい」と思う人も関われる仕組みがあるということは、とても心強いことです。「誰かの役に立ちたい」「子育てで困っている人の力になりたい」と思っている方にとって、ショートステイ里親は具体的な行動を起こせる機会なのです。
福岡市内にお住まいの方でショートステイ里親に興味をお持ちの方は、まず市の児童相談所や関連機関に相談してみることから始められます。
3歳の娘を育てるシングルマザーのYさん
突然の体調不良で緊急入院となりました。実家は遠方、頼れる親族もいない中で、自分の体調よりも「娘をどうしよう」とパニックになりました。病院のソーシャルワーカーからショートステイ里親制度を紹介され、温かい家庭で5日間お世話になることになりました。
最初は娘が泣いて大変だったそうですが、里親さんが手作りのおやつを一緒に作ってくれたり、絵本を読んでくれたりして次第に慣れたみたいです。退院後、娘は「おばちゃんのお家、また行きたい」と楽しかったことを話してくれて、私も本当に救われました。
突然の入院は誰にでも起こる可能性があります。自分の入院だけでなく、家族の入院や親の介護の時もショートステイを利用することで安心して療養、介護に専念することができます。
4歳の息子と0歳の娘を持つSさん
下の子が生まれてから上の子のお世話もままならず、『私が母親でいていいのか』と自分を責め続けていました。
夫も仕事で忙しく、なかなか相談できずにいましたが、保健師さんが定期訪問で私の状況に気づいてくれました。「少し休んでみませんか」と勧められ、週末だけショートステイ里親さんにお願いすることに。たった2日間でしたが、久しぶりにゆっくり眠れて、赤ちゃんとも落ち着いて向き合えるようになりました。上の子も「楽しかった、またお泊りしたい」と笑顔で帰ってきて、私の罪悪感も和らぎました。
ワンオペ育児で育児疲れのお母さん。ショートステイ利用後、2回目以降も同じ里親が良ければ同じ里親へ依頼して子どもを預けることも出来ます。初めての人に預けるよりも、同じ里親に預ける方が子どもの不安も、親の不安も解消されていきます。
子育てはひとりで抱えるものじゃない
私がこの記事を書いているのは、一人でも多くの方に「子育てはひとりで抱えるものじゃない」ということを伝えたいからです。
親の休息は、決してわがままではありません。それは子どもの幸せにも直結する、とても大切なものです。疲れ切った親よりも、適度に休息を取ってエネルギーを回復した親の方が、子どもにとってもより良い関わりができるのは当然のことです。
「完璧な親でなければいけない」「弱音を吐いてはいけない」そんな思い込みから親を解放し、「困った時は助けを求めてもいい」「それは当然の権利だ」という社会の空気を作っていきたいのです。
そして、もしこの記事を読んでくださっている方の中に、「誰かの力になれるかもしれない」と感じた方がいらっしゃったら、ぜひその想いを大切にしてください。あなたの家庭が、困っている親子にとって一筋の光になるかもしれません。
特別なスキルや資格は必要ありません。必要なのは、子どもたちを温かく迎え入れる気持ちと、困っている家族に寄り添いたいという想いだけです。
5歳の息子を持つシングルマザーのFさん
持病の治療で月に一度通院が必要なFさんは、定期的にショートステイ里親制度を利用しています。
最初は「毎月預けるなんて…」となんとなく罪悪感がありました。でも、里親さんが「お母さんが元気でいることが一番大切。安心して治療してくださいね」と言ってくださって。今では息子も「おばちゃんの家に行く日」を楽しみにしていて、私も安心して治療に専念できます。いつも同じ里親さんが預かってくれるので安心しています。ショートステイを定期的に利用することで、子育てにメリハリもついて、息子との時間もより大切に感じられるようになりました。
病気の治療や育児疲れからショートステイを利用する方も多いです。家族や友人など、頼れるところがない場合、ショートステイが大きな力を発揮します。安心してお子さんを預けてもらえるよう、保護者からの要望があれば里親宅での食事のメニューや、日中お子さんがどのように里親宅で過ごしているか、お預かり中毎日様子を報告することもあります。
普段は母親の体調が悪く、公園へ連れて行けないとおっしゃる保護者さんの代わりにお子さんを公園へ連れていき、公園デビューのお写真を撮ってスタッフを通して保護者の方へ送ったこともあります。
まとめ
社会を変えるのは、政策や制度だけではありません。私たち一人一人の意識と行動が、大きな変化を生み出します。
もしあなたが子育て中なら、「助けを求めてもいい」ということを覚えておいてください。そして周りに困っている人がいたら、「大丈夫?何か手伝えることある?」と声をかけてみてください。
もしあなたが支援に興味を持ったなら、まずはショートステイ里親制度について少しだけ調べてみませんか?いきなり登録する必要はありません。まずは情報を集め、説明会に参加し、自分にできることを考えてみる。それだけでも大きな第一歩です。
困っている家庭が「助けて」と言える社会。そして「助けたい」と思う人がその想いを形にできる社会。そんな社会を作るために、私たち一人ひとりができることがあります。
あなたの住む地域に、安心して子どもを預けられる温かい家庭が増えたなら。親が「ちょっと休みたい」と思った時に、罪悪感なく支援を求められる社会になったなら。
それは決して夢物語ではありません。小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな変化となって、すべての親子を支える社会を作っていくのです。
今日から、あなたも一緒に歩いてみませんか?
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