「完璧な母親でいなければならない」—この見えないプレッシャーに苦しんでいる お母さんは、決してあなただけではありません。
今回お話しする第3話は、育児ノイローゼに陥った母親みほちゃんと、3歳の娘まなちゃんの物語です。育児書を読み漁り、ネットで情報を集め、それでも思うようにいかない子育てに疲れ果て、ついには子どもを置いて家を出てしまった母親。その一方で、お金のために子どもを取り戻そうとするネグレクト母親の存在。
同じ「母親」でも、これほど違う現実があることを、私たちはどう理解すればよいのでしょうか。
この物語が教えてくれるのは、ショートステイ里親の役割が単に「子どもを預かる」ことではなく、「親も子も救う」可能性を秘めているということです。一時保護所でまなちゃんが見せた成長、そしてそれを見た母親が取り戻した自信—これこそが、短期間の家庭的養護が持つ真の力なのです。
現代の子育ては孤独です。SNSで見る「完璧な母親像」、溢れる育児情報、比較される子どもの成長。その中で疲れ切った親たちを支えるために、私たちにできることは何でしょうか。
第3話「ネグレクトする母親と子を思いすぎる母親」 あらすじ
兄弟の再会と母親の怒り
第2話で脱水症状により緊急搬送されたりずむくんが回復し、兄のどりむくんと一時保護所で一緒に暮らせるようになった。束の間の安心も長くは続かず、母親が児童相談所に乗り込んできて「お前のせいで家族がぶっ壊れた!絶対許さない!」と主人公の夏井を責め立てる。警備に抑えられながらも子どもを返せと叫ぶ母親の姿に、主人公は大きな疑問を抱く。なぜ子どもにひどい扱いをしておきながら、返してほしいと言うのか。
児童福祉司との面談で、母親は仕事を安定させ、二度とネグレクトのない環境を作らなければ子どもは返せないと告げられる。落ち着きを取り戻した母親は、子どもを連れて帰ることを諦めて帰宅した。主人公は後に、一時保護所や養育施設に子どもが長くいると手当が減ることを知り、お金のために子どもを引き取りたがる親の存在にショックを受ける。
みほちゃん親子との出会い
一方、主人公と蔵田先輩は育児相談の面接に向かう。相談者は3歳のまなちゃんの母親で、好き嫌いが多く成長が遅い我が子を心配していた。他の子ができることもできず、あまり話さない娘の心が読めずに不安を抱える母親の姿があった。心理士の診断では、まなちゃんは少し言葉の発達が遅いものの、大きな問題はないという結果だった。
面談後、この母親が主人公の小学校時代の同級生「みほちゃん」だと判明する。主人公は、子どもを虐待する親がいる一方で、こうして心配して相談に来る母親の存在に希望を感じていた。
完璧主義に追い詰められる母親
みほちゃんの自宅を訪問すると、整頓された部屋の本棚には数多くの育児書が並んでいた。蔵田先輩がショートステイ施設やベビーシッターの利用料金補助などの支援を提案するが、みほちゃんは疲れ切った様子でぼんやりしている。飲み物をこぼして泣くまなちゃんに「いつもこうなんです。何回教えてもできなくて」と悲しそうに語る姿に、蔵田先輩は診断を勧める。
診断結果は育児ノイローゼだった。小さい頃から自分に自信のなかったみほちゃんは、「母親だけは完璧にやれている」と自分に言い聞かせ、できないのは子どもが悪いのだと思い込んで育児を続けてきたのだ。主人公に胸の内を話せて少し楽になったと語るみほちゃんを、主人公は遊園地に誘った。
束の間の笑顔
翌日、3人で訪れた遊園地では、まなちゃんの笑顔に母親も自然と笑顔になっていく。みほちゃんは小学生時代、母親手作りの給食袋を男の子に取られて困っているときに主人公が助けてくれたことが嬉しかったと語る。主人公もあの出来事がきっかけで「たくさんの人を助けたい」と思うようになったと、みほちゃんに感謝を伝える。
しかし、主人公が食べ物を買いに行った隙に、ぬいぐるみで遊ぶ他の子どもを見たまなちゃんが同じものを欲しがって泣き出してしまう。まなちゃんが泣き止まず、みほちゃんも精神的に限界に近づいたところで主人公が戻り、なんとか落ち着くことができた。
突然の失踪と緊急事態
翌朝、遊園地での楽しい時間を思い出しながら出勤した主人公は、蔵田先輩から「相談者に深入りするな」と注意を受ける。そのとき、「子どもの泣き声がする」という通報が入る。場所はみほちゃんの住む家だった。
急行した主人公と蔵田先輩がチャイムを押してもノックをしても返答がない。まなちゃんの鳴き声だけが聞こえ、ドアの鍵が開いていたため中に入ると、幼いまなちゃんが一人で取り残されており、みほちゃんの姿はなかった。
自責の念と専門家の判断
児童相談所に戻り、蔵田先輩は一時保護の手続きを進めようとする。「みほちゃんは頑張ると言っていたから」と一時保護に反対する主人公に、蔵田先輩は厳しい言葉を投げかける。「あなたが頑張ると言わせたんじゃないですか?これ以上何を頑張ればいいんですか!あなたのしたことが彼女を追い詰めた可能性があるんですよ」
リーダーからこれ以上このケースに関わらないよう待機を命じられた主人公は深く落ち込む。そんな主人公を気遣い、保育士兼課長が一時保護所の手伝いを申し出る。
蔵田先輩の過去
保育士兼課長は元福祉士で、かつて児童相談所の所長をしていた。彼女は蔵田先輩がまだ新人だった頃の似たような出来事を語る。当時の蔵田さんは経済的に困窮する家庭を担当し、一時保護の意見もある中で親子を引き離したくない一心で、遅くまで残業して改善策を模索し、何度も家庭訪問を重ねていた。
しかし、児童相談所の支援を快く思っていなかった両親は、ある日突然引っ越して姿を消してしまう。蔵田さんは「一緒に頑張ろう」と言った自分の言葉が負担になったのかと自分を責め、今でもその家族を探し続けているのではないかという。
捜索と再会
主人公は蔵田先輩に謝罪し、親子を一緒にいさせる方法を相談するが、「離れて暮らすと母親が決めたなら私たちにできることはない」と突き放される。
一方、過去の自分と主人公を重ね合わせた蔵田さんは、みほちゃんを探しに向かう。アパートは空っぽで、近所のドラッグストアやスーパーをあちこち探し回った末、海辺のベンチで一人海を眺めるみほちゃんを発見する。
「すみません、すみません」と逃げようとするみほちゃんに「買い物に出かけただけなんですよね?」と声をかける蔵田さん。みほちゃんは子どもが寝ている間に少しだけ買い物に出るつもりが、足が動かなくなって置き去りにしてしまったとを謝る。蔵田さんはみほちゃんを気遣いながら、しばらく親子が離れて暮らすことを提案する。
一時保護という選択
父親は「みほが元気になるまでまなの面倒を見る」と言うが、仕事と育児の両立の厳しさから、まなちゃんは一時保護となり、父親にはみほちゃんを支えてもらうこととなった。一時保護所では「ママに会いたい」とまなちゃんが泣き、それを見て暗い顔をしている主人公を他の子どもたちが励ましてくれる。
大切な一日の記録
「普段何気ない毎日でも、子どもにとって大切な1日だから」と子ども一人ひとりの日誌をつける保育士兼課長に、主人公は「私も書いていいですか?」とまなちゃんの記録をつけたいとお願いする。子どもたちと遊ぶ姿、シャボン玉をする姿、頑張って食事をする姿など、まなちゃんの大切な一日を離れた場所から見守り続けた。
職場の温かい配慮
書いた日誌をみほちゃんに届けたい主人公だが、「深入りするな」と言った手前、蔵田先輩は直接許可を出せない。「今日は忙しいから行けないが、今のみほちゃんには必要なものかもしれない」という遠回しな言葉を聞いて、心理司が「みんな忙しいから主人公しか行けないね」と言うと、先輩福祉士も「やらかしたからって担当外すのもやりすぎ」とリーダーへ働きかけ、待機命令が撤回される流れとなった。
母親としての自信の回復
リーダーから「行ってらっしゃい」と送り出された主人公は、みほちゃんに日誌を渡そうとするが「見る資格がない」と拒否される。そこで一時保護所に連れて行き、マジックミラー越しにまなちゃんの食事の様子を見せる。数日の間に上手にご飯を食べられるようになったまなちゃんを見て「どうやったらあんなに上手く子どもを育てられるんですか?」とショックを受けるみほちゃん。
保育士兼課長は優しく語りかける。「そんなもの(育児書)見なくていいんですよ。あの子だけ見てればいいんです。子どもも親も一人一人違うんだもの。正解も一つじゃない。まなちゃんがちゃんと食べられるようになったのは、あなたがちゃんと教えていたってことですよ」
愛情の確認と家族の再生
日誌には保育士さんに手伝ってもらって着替えができた、お友達と仲良く遊べた、スプーンで自分でご飯を食べられた、歯磨きの時もおとなしくできたなど、たくさんの「できること」が記録されていた。読みながら泣くみほちゃんに「みほちゃんの想いはちゃんと届いていたんだよ」と主人公は伝える。
「お母さん頑張ったね」と保育士兼課長に言われ、「またこの子と一緒に暮らしたいって思ってもいいですか?」という質問に蔵田先輩は「もちろんです」と答え、みほちゃんも主人公も安心する。
その後、みほちゃんは育児書を捨て、カウンセリングに通い始め、まなちゃんの一時保護が解除される。「ママ!パパ!」と元気に駆け寄るまなちゃんを「ごめんね。もう離さないから」と抱きしめるみほちゃんの姿で、この物語は希望に満ちた結末を迎える。
完璧主義が生む悲劇
みほちゃんの物語は、現代の子育てが抱える深刻な問題を浮き彫りにします。小さい頃から自分に自信がなかった彼女にとって、「完璧な母親」であることは最後の砦でした。部屋に並んだ数々の育児書、ネットで夜中まで調べる育児情報—それでも思うようにいかない現実に、彼女は追い詰められていきます。
「何回教えてもできない」「他の子はできるのに」—こんな思いを抱いたことのある親は決して少なくないでしょう。しかし、育児に「正解」はありません。保育士兼課長の言葉「子どもも親も一人一人違うんだもの。正解も一つじゃない」は、すべての親に向けられたメッセージです。
一時保護は「失敗」ではない
まなちゃんが一時保護されたとき、みほちゃんは「母親失格」だと自分を責めました。しかし、一時保護所での数日間は、親子双方にとって再生の時間となりました。
一時保護所で起きた変化
- まなちゃんは安心できる環境で、本来の力を発揮できた
- みほちゃんは休息を取り、冷静に自分と向き合えた
- 専門スタッフが子どもの成長を客観的に記録し、母親の頑張りを可視化した
これは「親子を引き離すこと」ではなく、「親子をより良い関係で結び直すこと」だったのです。
ショートステイ里親の意義
もしこの時、まなちゃんを受け入れるショートステイ里親がいたらどうだったでしょうか。一時保護所でも十分なケアは受けられますが、家庭的な環境で過ごすことで、より自然な成長を促すことができたかもしれません。
ショートステイ里親が提供できるもの
- 家庭的な温かさと個別的な関わり
- 子どもの個性に合わせた柔軟なケア
- 実親への心理的負担の軽減
- 「預ける」ことへの罪悪感の軽減
みほちゃんのように「完璧でなければならない」と思い詰めている親にとって、「信頼できる人に預ける」という選択肢があることは、大きな救いとなるはずです。
記録の力—見えない愛情を可視化する
物語で最も感動的なのは、主人公がつけた日誌をみほちゃんが読む場面です。「保育士さんに手伝ってもらって着替えができた」「お友達と仲良く遊べた」「スプーンで自分でご飯を食べられた」—これらの記録は、みほちゃんの愛情がまなちゃんにしっかりと届いていたことの証明でした。
記録が持つ意味
- 子どもの成長を客観的に把握できる
- 親の頑張りを具体的に評価できる
- 将来への希望と自信を与える
- 親子の絆を再確認できる
ショートステイ里親も、このような記録をつけています。
こんな話をした、こんな遊びをした、こんなことができたなど日常の中の細かいことでも見逃さないように注意して記録しています。この記録を通じて実親との橋渡し役を果たすことができます。子どもの日々の様子を丁寧に記録し、実親に伝えることで、離れている間も親子の絆を保ち続けることができるのです。
支援する側の責任
蔵田先輩の過去のエピソードは、支援者側の責任の重さを教えてくれます。「一緒に頑張ろう」という善意の言葉が、時として相手を追い詰めることもある。しかし、だからといって支援を諦めてはいけません。
適切な支援のポイント
- 相手の立場に立った言葉選び
- 過度な期待をかけない
- 失敗を責めずに次の方法を探す
- チームで支える体制作り
- 長期的な視点を持つ
ショートステイ里親も、支援者の一員として、こうした姿勢を大切にする必要があります。
予防的な支援の重要性
みほちゃんのケースで考えるべきは、もっと早い段階でのサポートがあれば、一時保護まで至らなかった可能性があることです。
予防的支援としてのショートステイ里親
- 育児疲れの初期段階での短期預かり
- 母親のリフレッシュ時間の提供
- 育児の悩み相談相手としての役割
- 地域での見守り体制への参加
「完璧でなくてもいい」「一人で頑張らなくてもいい」—こんなメッセージを、制度として社会として発信していく必要があります。
まとめ
みほちゃんとまなちゃん親子の物語は、現代の子育てが抱える孤独と、それを支える仕組みの可能性を教えてくれました。育児書に頼らず、「あの子だけを見ればいい」という保育士兼課長の言葉は、すべての親、そして子どもを支える大人たちへの大切なメッセージです。
この物語から学ぶショートステイ里親の意義:
- 予防的支援の力 – 深刻化する前の早期サポート
- 記録による可視化 – 見えない愛情や成長の証明
- 家庭的環境の提供 – 施設では難しい個別的ケア
- 親への心理的支援 – 「預ける」ことへの罪悪感の軽減
- 専門的な橋渡し役 – 実親と子どもをつなぐ存在
みほちゃんが最終的に「またこの子と一緒に暮らしたい」と思えたのは、まなちゃんが一時保護所で大切にされ、成長する姿を見ることができたからです。そして、自分の愛情がちゃんと子どもに届いていたことを確認できたからです。
ショートステイ里親への期待
- 困った時の駆け込み寺的存在
- 親の成長を支える伴走者
- 子どもの個性を理解する理解者
- 地域で親子を支える仲間
「完璧な親」などいません。みほちゃんが育児書を捨て、カウンセリングに通い始めたように、「完璧」を求めるのではなく、「その子らしさ」を大切にする子育てを、社会全体で支えていく必要があります。
ショートステイ里親は、その支援の重要な一翼を担う存在です。短期間でも、家庭的な温かさと専門的な視点を持って子どもと関わることで、親子の再生を支えることができるのです。
「ママ!パパ!」と駆け寄るまなちゃんと、「もう離さないから」と抱きしめるみほちゃんの姿—この希望に満ちた再会を、一人でも多くの親子に実現してもらうために、私たちにできることから始めませんか。
子どもたちにとっての「安心できる場所」を、そして親たちにとっての「頼れる仲間」を、地域に、社会に増やしていく—それが、ショートステイ里親という選択が持つ可能性なのです。
※ショートステイ里親や一時預かり支援についての詳しい情報は、お住まいの地域の児童相談所や自治体にお問い合わせください。また、育児でお悩みの方は、一人で抱え込まず、専門機関にご相談ください。
福岡市にお住まいの方→福岡市こども総合相談センター えがお館 ☎︎092−833−3000
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